バンコククロスライン・サンプル「プロローグ」遺言

2025年08月28日

バンコククロスライン・サンプル「第1章 ビザという壁」

5ec3b3f3-8111-4e3b-8d8a-de7c188011c9タイで暮らすには、まず越えなければならない大きな壁がある。
――ビザだ。
配偶者ビザが一番手っ取り早い。
俺には14歳年下のタイ人の彼女・ナムがいる。
2年前、彼女が外国人技能実習生として日本に来たときに出会った。
当時、片言の日本語で懸命に働く姿に心を打たれた。
気づけば一緒にいるのが当たり前になり、付き合ってもう2年。
昨年は、バンコク郊外に一戸建てを建てた。
資金はすべて俺持ち。もちろん名義はナムだ。
彼女が笑顔で家の鍵を掲げたときの姿を、今でも鮮明に覚えている。
だが、結婚して配偶者ビザを取れば安定することは分かっていても、俺の心には拭えない迷いがあった。
――ナムは本当に俺を愛しているのか?
――それとも、俺は彼女にとって「子供二人を育てるための切り札」にすぎないのか?
ナムは真面目で、優しくて、気が利く。
日系企業の工場で働き、休日出勤もこなす。
結婚すれば二馬力になり、生活は安定するだろう。
だが実際に一緒に暮らせば、ナムは毎朝仕事に出かけ、俺は無職の老人として家に取り残される。
ソファに寝転がる俺と、疲れて帰ってくるナム。
その姿を想像しただけで、胸が重くなる。
やがて「怠け者」「寄生虫」と罵られる自分の姿が目に浮かび、背筋が凍った。
「いや、俺も仕事を探さなきゃ……」
そう思うたび、心の奥にある“プライド”が疼いた。
結婚するなら、俺も同じ立場で立っていたい。
男としてのプライドを、最後まで手放したくはなかった。
もう一つの選択肢が「リタイアメントビザ」だ。
50歳以上で、タイの銀行口座に80万バーツ(約360万円)を預ければ申請できる。
誰にも頼らず、自分の資金で堂々と暮らせる方法だ。
だが、その金を口座に眠らせたままでは、動きの取れない不自由さもある。
そんなことをネットで調べていたある日、広告が目に飛び込んできた。
「年齢・学歴不問! バンコクで日本語教師募集中!」
心臓が跳ねた。
――これだ。
還暦の俺でも雇ってくれるかもしれない。
しかも「先生」と呼ばれる。
タイの若者に囲まれ「先生!」と慕われる自分の姿を想像すると、思わず頬が緩んだ。
よし、行動あるのみだ。
定年前の有給を使い、面接のためにバンコク行きを決意した。


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sereb1 at 00:32│Comments(0) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック バンコククロスライン | 小説

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