2025年08月25日
バンコククロスライン・サンプル「プロローグ」
定年退職まで、あと何日。俺はカレンダーに赤い丸をつけては、指折り数えるのが日課になっていた。
有給を逆算していくと、最終出社日はいつか。机の上の付箋が日に日に増える。
再雇用? 選択肢としてはある。だが、人事からは何の声もかからない。
(四十年この会社にいた。現場も数字も支えてきた。なのに六十歳という線一本で、俺は“お役御免”なのか)
そんなふうに考えると、胸の奥がじりじり焼ける。
呼び出しが来たのは、そんな矢先だ。
面談室。人事部長・木村は椅子にもたれ、組んだ指で机をとんとん叩いた。
「六郎さん、何か言いたいことは?」
俺は警戒した。下手に本音を出せば、安く叩かれる。
「えっ、何のことでしょう」
木村は眉を上げ、口角で笑った。
「この前のヤフーニュース、見ましたよ。タイ移住をテレビでしゃべってたでしょ。困るんだよね、うちの社員が“良からぬニュース”で出るのは。評判に傷がつく。取引先にも響く」
胸の血の気が引く。だが言い返した。
「会社の名誉を傷つけた覚えはありません。就業規則にも“露出禁止”なんてないはずです」
木村は机を「バーン!」と叩いた。
「六郎さん。業績も悪いんだ。高齢者を雇う体力は……ない。――ただね、法律が邪魔をしてる。定年後、希望者は再雇用しろって。今年から」
つまり、こうだ。
「給料は月20万円、賞与なし。残業代は込み。年収240万円。仕事内容は今と同じ。希望なら一週間以内に書面で返事。希望しないなら退職届を」
血管が切れそうだった。今年入社の新入社員より、安い。
面談の最後に木村は言い放つ。
「退職金は“テレビの件”も踏まえて、減額もあり得るから覚悟して」
最後の最後まで俺を見下すのか。
(――もう十分だ)
俺にはバンコクで待つ彼女、ナムがいる。彼女は14歳年下、日系工場で働くしっかり者。
去年、バンコク郊外に一戸建てを建てた。資金はすべて俺持ち(名義は彼女)。
それでも、俺の人生はまだ終わっていない。
再雇用は断る。タイで生き直す。
「馬鹿にするんじゃねぇ」
Amazonで久慈六郎のサスペンス小説「バンコククロスライン」を書きましたので良かったら読んで下さい。
読みやすい文量で🇹🇭タイ好きの皆さんに是非😙
Kindle unlimited だと無料で読み放題になっています✌
この記事へのコメント
1. Posted by 読者 2025年08月26日 20:07
ロト6の賞金をすべて失った時点であなたは終わったの。自分より貧乏な人のブログを見る気はしないのよ。貧乏が移りそう。退職金を運用して足りない生活費の足しにできればいいけど、そのスキルはなさそう




























